最近読んだ本とか

最近読んだ本のうち、良かったものの感想をゴチャゴチャと並べてます。 まあ無責任な個人的読書日記と思って下さい。

97年分 | 96年分 | 95年分

んなもんどーでもいいわい!という人は(ふつーはそう(^^;)
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では、以下お付き合いを...

『琴線の触れ合い』 ギドン・クレーメル 著, カールステン・井口俊子 訳, 音楽之友社

クレーメルはウクライナ出身の国際的なバイオリニストです。 これは彼のエッセイ集で、3作目になるのだそうです。 現代音楽を積極的に演奏し、鋭い響きを聞かせることで有名な彼ですが、 エッセイで見せる姿勢には、確かに演奏に通じるところがあるような 気がするから不思議です。 自分の読解が正しいかどうかわかりませんが、 求道的に、音楽や物事を突き詰めて考えていく人、という印象を受けました。

この本で面白いのは、有名な音楽家たちとクレーメルとの交流が ボンボン出てくること。カラヤン、バーンスタイン、ピアソラ、 グールド、ヨーヨー・マ、アルゲリッチ、etc... 『クレーメルから見た』彼ら・彼女らは、我々に伝わってきている イメージとは当然異なる部分があり、 そこが特に興味深いです。

ちょっと個人的な話になりますが、タンゴの大家であるピアソラの 作品集で、クレーメルが弾いているものを私は二枚持っています。 で、ヨーヨー・マのものを一枚持っています。バイオリンとチェロと いう違いもありますが、硬い・鋭いクレーメルと、柔らかい・暖かい マの演奏は、比べてみると非常に興味深いです。 私はどっちも好きなんですが(^_^;。

『リング』『らせん』『ループ』 鈴木光司, 角川書店 (前二作は角川ホラー文庫)

以前から友人に『面白いぞ〜』と言われており、リング・らせんは積ん読 状態で二月ほど放ってあったのですが、ある時間のとれた週末に 読みにかかったところ、この2作を読み終わったところで 居ても立ってもいられなくなり、 速攻で本屋から「ループ」を購入、これも一気に読了してしまいました。

実はループは文庫を待とうと思っていたんですが、続きがあるとなると、 どーしてもガマンできませんでした。 おそるべし鈴木光司。

で、感想ですが。 正直に正直に言ってしまうと「後にいくほどツマラナイ」です。 リングは典型的なホラーですが、後に行くほど SF 的な要素が強く入ってきます。 論理的にホラーを説明されてしまうと、ちょっとしらけてしまう。

この3部作は「リング」⊂「らせん」⊂「ループ」という包含関係になっていて、 しかも著者後書きによると「リングを書くときには全体の構成は考えて いなかった」そうなのです。ですから後の方の作品は、悪く言うと 「前作にむりやり付けた説明」になってしまっているような気がするのです。

とはいえ、私のとった行動からもお分かりの通り、読書中の快感は非常に高い 作品群です。 「らせん」も「ループ」も、途中全然休まず一気に読み通してしまいました。 こんな読み方をした小説は久しぶりです。 ということで、連続した時間のある方には超お薦めなのです(^_^;。

『28年目のハーフタイム』文藝春秋社, 『決戦前夜』新潮社 金子達仁

著者は、雑誌 Number に時折記事を載せていた方でしたが、 同雑誌でのアトランタオリンピック後の記事『断層』で評価を集め、 この2冊で、国内サッカージャーナリストとしての地位を確立した観があります。 前者は『断層』を膨らませて、オリンピックでの日本対ブラジルの一戦と、 その後の日本代表にくすぶっていたさまざまな人間関係を見せてくれたもの、 後者は、筆者とのつながりが深い川口と中田を中心に、 ワールドカップ予選を描いたもの、です。

一時期、サッカーバブルなる言葉が流行ったことがありますが、 おそらくこの本の売れ行きもそのおかげによるところ大ではあるでしょう。 しかし、選手や関係者に数多くの(そして深い)インタビューをし、 それをもとに『実際に起こっていたこと』を鮮やかに描き出す手法は、 スポーツジャーナリズム本として間違いなく一級品だと思います。 ちょっと『決戦前夜』のほうでは、文学的(?)な香りを出そうとして、 やや『クサい』感も受けるものの、いずれも読んで損のない作品だと思います。

ただ、個人的にちょっと心配なのは、最近の Number での金子氏の 文を読んでいると、この『クサさ』への方向が助長されている感があることで... 具体的には、強調したい内容を短い文章からなる一つの段落に浮かせる手法が 目につきます。 これが、攻撃的な主張が多いこととあいあまって、 やや私には下品に感じられてしまいます。 もちろん文体には好ききらいがあるでしょうから、しょうがないんですけど。 ジャーナリズムに劇的な文章はあまり似合わないと個人的には思うんですが。

『合衆国崩壊』 トム・クランシー 著, 新潮文庫

前作『日米開戦』の終幕で、多くの議員とともに大統領を失ったアメリカで、 ライアンは副大統領からとうとう大統領になってしまいます。 そのライアン/合衆国に対して、イラン・中国・インドからなるグループの、 謀略と軍事による攻撃がされるわけですが...

以前から強かった軍事テクノロジーにあわせて、医療、経済方向でも (少なくとも私程度の素人からは)説得力のある展開をみせ、 『ありうる未来』を読ませる技量はさすがです。 とうとう四分冊にまでなってしまった作品ですが、 温泉に出かけていた2日程度で読み通してしまいました。

しかし、うーん、なんというか、右翼小説(^_^;。 最後近くのライアンの演説などは、 背中にビッと来て、涙腺がゆるんでしまうようなところもあるのですが、 でもこれって、冷静に読んでみるとアジテーション手法の one of them なんですよね。 『こんなのがアメリカ国民の一般認識になったらやだな〜』 と、国外の人間からは思えてしまいます。

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文責:中野武雄(97.8.20更新)

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